チチュウ。

チチュウ。

ミュラル通りの一角にあるサーカステントの入り口でもぎりをしていた男が、突然ナイフを持ち出して暴れだした。そのときたまたま側にいた老婦人を肩で突き飛ばすと、わけのわからないことを喚きながらズボンをずりおろし、その場にあったパイプ椅子と交わるふりをした。男の唐突な行動に唖然とする通行人たちは誰一人として状況を把握できず、女たちはただ悲鳴をあげるばかりだった。そんな人間たちをよそに彼は焦点の合わない目で高らかに天をナイフで突き、張り裂けそうにこう叫んだ。
「俺は人間じゃねえ!わかってんのかてめえら、お前らカチカチなんだよ!俺を差別しやがって。おい糞やろう共、俺に近寄ったらぶっ殺すぞ、、、、、。で、で、で、で、でっかいナメクジ姫が、ずっとこっち見てんだよう」
意味不明である。
異常を察知したサーカス団の団長がテントから飛び出してくると、男はそちらをぎらっと睨み歯をむき出しにして飛びかかった。
二人は地面をころげて、もうもうと砂煙がたちこめる中もみあった。鳥が絶命するような奇妙なうなり声が増すにつれ、その激しさに更に視界が悪くなる。その声に気分が悪くなった少年はその場にうずくまって嘔吐した。それを見た少女も嘔吐した。ヒステリックに吠えつづける犬も混然とする群衆たちもその危機的な状況に全員パニックになり、気づけばあちこちで殴り合いの喧嘩も始まっていた。

町の警備隊がその場に到着した頃には、人々はぐったりとへたり込み、テントの前には男の皮がくしゃくしゃに横たわっていた。綺麗に脱皮した男は、そのまま町外れの森の方へ走って消えて行ったのだそうだ。
その姿を真近で見た団長は、目が潰れ、口も糸で縫われていて開けなくなっていた。救護班がその糸を取り外すと、団長は震えながら彼の見たその男の姿を意外にも饒舌に語った。
「あいつは人間じゃない、ナマコみたいにぶよぶよした化け物だった」
「皮から飛び出るとき一緒に二匹の小人が鼻から転がってきた。そいつが俺の口を縫ったんだ」
「姫が、姫がどうこうって言ってた、よくわかんねえ」
「俺の目、どうなっちまったんだ、」

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