『魚と猫とゴムとネコ』の1。

「あいつが帰ってきた。」
僕たちの間に大歓声が起きた。
今にも擦り切れそうな姿で僕らのコミュニティに戻ってきたのは、あの弱虫のニクモだった。僕らは滅多に感情を表に表さない。けれど、みんな大声で彼の名前を呼び、英雄を迎えるような、少し正気を失った歓声を一晩中上げ続けた。
ニクモは疲れきった顔で、少し怯えるように弱々しく笑っていた。そんな彼の姿が、僕らをより熱狂的にさせた。
「まさか、またここに戻ってこれるなんてねぇ。」
ピンク色のヘルメが言うと、その場に居るみんなは一様に、うんうん、と頷く。
「あいつはなんだか随分たくましくなったな。何があったのか、是非旅の話を聞いてみたいものだね。」
ミドリ色のガータが言うとまた、その場に居るみんなは、うんうん、と頷くのだった。

僕らが住む場所には光があまり差し込まない。暗い壁が四方八方を埋めていて、唯一色が灯る景色を見ることができるのは天井に開いた丸い穴、そこからだけだ。その穴からは光の切れ端が薄く、とても細くだけど、ひらひらと舞ってくる。それは愛しくもあり、少し哀しくもあった。そしてその光の向こうには、確実にこの場所とは違う世界が広がっている。しかし僕らにはそこがどんな世界なのかは全く以ってわからない。このコミュニティを出て行ってから、戻ってきたものが誰一人いないからだ。それが何を意味するのか、僕らには何となく分かっていたけど、誰一人としてそれを口にするものはいなかった。
何の脈絡もなく突然、今まで多くの仲間達が外の世界に引っ張られていった。
巨大なクレーンが彼らの体をつまみ上げ、光の中へと連れて行く。
そしてそれから、二度と消えていった彼らに出会うことはなかった。
ニクモ以外には。

ローズレッド色のハルマがニクモに話しかけた。僕の仲間内ではニクモに話しかけたのは彼女が初めてだった。
「こんにちは。調子はどう?ってあまりよさそうじゃないわね。ひどい顔してるわよあなた。まぁ色々あっただろうから無理もないだろうけどね。ほんと体が切れちゃわないように気をつけるのよ。それでね、もうさんざん色んな奴から聞かれたことだろうけど、教えて欲しいのよ。外の世界のこと。そしてあなたがどうやってここにまた戻ってこれたのかもね。もう今はうんざりっていうのならまた今度会った時でもいいの。それでもいいから話してくれないかしら?」
ハルマがそう言うと、ニクモは少しの間目を瞑ってからゆっくり息を吸って吐き、静かに口を開いた。
「ありがとう。切れてしまわないように気をつけるよ。
話、少し長くなってしまうけどいいかな?」
ニクモの灰色の体に光が反射して、微笑んだ顔の左半分は、眩しくて見えなかった。

YES.greenlabel/hozzy

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