『魚と猫とゴムとネコ』の4。
ニクモはポチと一緒に河原で風に揺られていた。
無数に転がる石の中の一つ、ヒトデの様な形をした真っ白い石の上に横たわりながら、しゅるしゅると揺られていた。
陽射しは強く、雲はなく、近くに流れる川の水面は正視できないほど輝いている。
そしてもうその石の上に随分長くいるせいで、心なしか熱で体が少し伸びたような気がする。
ニクモに汗がかけたなら、バターが溶けたみたいに額に雫が浮いていることだろう。
そう、泣きながら、ポチを蹴飛ばしたあの女の子のように。
ニクモの目の前でうずくまるポチは、ぴくりとも動かず輝く川の方をじっと凝視していた。
自分を痛めつけた女の子の気持ちをその輝きの向こうに見つけようとしていた。
目の奥はずんと重くなり、鈍い痛みが響き続けている。
もうとうに、川の形もその周りにある風景も見えなくなり、視界は白い光の幕で覆い尽くされている。
それでもポチは、そこから目をそらすことができなかった。
悲しみの理由は光の向こう側にあると、すがるように、抱きしめるように、この猫は頑なにそれを胸の奥で信じていたかったからだ。
ニクモはそんなポチを見ながら、この世界の成り立ちを少しずつ理解していた。
伸びた体の一部がきゅっと引き締まっていく感じがした。
突然、強い風が吹いた。
それは、びゅーん、と大きな音とともに、砂埃と木の葉を舞い上げ、次いでニクモの体を宙に浮かせた。くるくると回転しながら灰色の輪ゴムは空を昇り、ある一点に達すると重力に吸い込まれながら落下、川の上に着地し、沈んだ。
YES.eve/hozzy