『魚と猫とゴムとネコ』の6。
水中で身をまかせるまま流れに乗り続けていたニクモは、太陽が自分の進行方向の逆側に随分取り残された頃、奇妙な光景に出会った。
自分と同じように細長い形をした生き物が、石の影から水面に向かって縦にゆらゆら揺れていたのだ。
赤みがかかった、細長い生き物。
ふらふらと、緩やかにダンスをしている彼らを見て、ニクモはふと、コミュニティにいる自分の仲間達の事を思い出した。
臆病な自分と違って、皆は伸び伸びと笑いながら過ごしていた。あの素敵なハルマは元気だろうか。綺麗なローズレッド色の彼女。シルフォ、セイン、カルデ、メイラン、皆元気だろうか。まだ、欠けることなくあの場所に皆いるのだろうか。
そんなことをぼんやり、その生き物を見るともなく考えていたら、さっと目の前を黒い影が横切っていった。気づいたらさっきまでそこにいた、赤い細長の群れが、半分ほど消えていた。何がなんだかわからないまま、うろたえているとまた黒い影が目の前をさっと横切っていった。もうふらふらした糸達は全部消え去っていた。危険が迫っていることにようやく感づいたニクモは、おろおろしながら、くるっと周りを見渡した。すると、遠くの方から、もの凄いスピードで大きな黒い影がぶくぶくと、たくさんの泡を撒き散らしながらこちらに向かってくるのが見えた。
「あーっ」
とニクモが声を出す間もなく、その黒い影は彼をパクッと丸呑みにした。
「もしもし、平気ですか?もしもーし。」
遠くで誰かの声が聞こえる。体が重い。
「平気かな、このコ。まぁ、私達も平気じゃないって言ったらそうなんだけどね。」
「うーん、ほんとだよな。どうしたもんかね、このままじゃ僕らも溶けちまうぞほんと。」
ようやくだんだんと、視界に光が差し込んできた。
「見て、ノンちゃんなんてもう体が半分しかないわよ。」
「ああほんとだ、もう見てられないや。」
一体何が起きているんだろう。
僕が体をのっそりと起こすと、側で背中を向けて会話をしていた二匹のイトミミズは、はっと、少し驚いたようにこちら側を振り向いた。
「あっ、ねぇねぇ、よかったわ、気がついたみたいよ。」
縦に細長い方のミミズが、不安を滲ませながらも優しくそう言った。
「よかったな君、もう目覚めないのかと思っていたよ。」
体が太いほうのミミズが、やはり不安を押し殺すように、優しく微笑みながら僕にそう言った。
「ここは一体どこなんですか?」
「魚のお腹の中よ。」
YES.akakirishima/hozzy