ベイビ。

やがて芽が生えたその場所からは、美しく透明な深い音色が漂いだした。
その音につられて蝶やカマキリやきりぎりすも集まってくるようになった。それは誰にも知られない、孤独さえも手が届かなかった暗がりに、始めて光が落ちた瞬間でもあった。メーワイは土の中にくるまりながら、遠い場所で夢を見る。微かな寝息が芽の根を震わせ、彼のやさしい呼吸を葉は世界にばらまいていた。

光のリズムを聴いたフクロウがコウモリに言った。
「おいおい、あそこの影がだんだん濃くなっていないか」
「ああ。恐ろしいね。あの光の音が強すぎるんだよ」
「このまんまじゃ僕らの闇が狂っちまう」
「うん。だんだん息苦しくなってきた」

月明かりが細々と見え隠れする中、ゆっくりと森のバランスが傾き始めていた。

メーワイの寝息は美しく、光を音に変えたように樹々を揺らしている。どんなに腕の立つバイオリン弾きにも表現できないような響きを浮かばせている。それもただ眠りに落ちているだけで彼は何も知らず望みもせずただそこで美を鳴らしているだけだった。それは不器用な美であった。彼の美は純粋である故のある種の暴力性も孕んでいた。少しぼやけたところで強烈な醜悪さを放ちながらもそこに燦然と存在している香水の輝きのようなものだ。ダイヤの原石よりも貴重で、同時に三文の価値もないような石くれのようにも思えるもの。むしろ、不幸を呼び起こす、過剰な優しさを粉末にしたようなもの。あるものには深い安らぎを与え、あるものには暗く灰色い憎しみを呼び起こすもの。

「あの芽をつんでくるよ」

そう言うと、コウモリは羽ばたいて、メーワイの額から伸びて地面に飛び出した新芽の葉をひきちぎってしまった。忌々しそうにその葉を眺めた後、生ゴミを捨てるように森の闇夜にそれを放って自らの巣に帰って行った。

また暗がりは、もとの暗がりに戻っていった。
ただ以前と違うのは、そこにはもう「無」というものがなくなっていた。
孤独が「ぐうぅう」と産声をあげた。

YES.houhou/hozzy

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