ロジカ。

ロジカ。

14000年くらい前。

博士と助手がいた。


「博士!この機械はなんなんでしょうか!!」

「うーん。きみに言ってもわからんだろう」

「そんなあ、博士、教えて下さいよ」

「まずは君、ヒゲそってきなさい。無精はよくない」

仕方が無いので、私はじょりじょりそりました。


「博士!つるつるのぴかぴかです!あの機械の用途を教えて下さい!」

「にゃむにゃむにゃむ、がおおえっぺ!!」

「博士!入れ歯をはめて下さい!!」



言語変換機「ケレカ」


個人の感覚を、感覚語に変換する機械である。

わかりづらいであろう。

こういう感じだ。


パンのみみ→たったららったーんた

ごみ→ごわっしっしゅしょ

猫→ちょろーんろん

オードリー→かっすが!




大売れ。






100年後には、国語が崩壊という事態に。



人々は皆思い思いの感覚を前面に出せるようになった。

ケレカver7.0の時点でとうとう、言語を凌駕する表現力を獲得。

ver10.2で完全に不足がなくなった。


そして、

誰一人、母国語を話さなくなった。

孫との会話はもうほぼ通じず、この時代の老人たちはかなりの寂しさを味わったという。

そして時は流れ、120年後。


とうとうテレパシー装置がケレカにつく。

もはや発声自体が完全に必要なくなった。

人々の声帯は退化し、誰もが歌を歌わなくなった。

音楽は空気を経由しない直接系信号音楽に進化。

誰も記録メディアを使わなくなった。


そしてちょうどこの時期辺りに、宗教による対立というものが崩壊する。

テレパシーが、人々の思想の相違部分と共有部分をこれまでになく克明に人類に知らしめたからである。

宗教にある根底部分を誰もがよくわかることができた。

結果、宗教の形式的対立の不毛さが火を見るより明らかに浮き上がり、火の粉が消えるように争いは収束していった。

人々は深く涙を流し、包容し合い、頭の中で歌をうたった。


文化の差異に対する偏見も崩壊した。

国境が消え、民族精神がなくなり、残ったのは肌の違い、人相の違いだけになった。

だが物理的な壁を取り払った人々にとってもはや、外見は問題ではなくなっていた。




外見による個別化は、ヨーグルトのパッケージと同じぐらいの役割しか果たさない。
生産する会社が違うだけで、中身はどれもヨーグルトである。
A社もB社もヨーグルトを作っていることには変わりがない。
要はそこに違いが生まれるのは、ヨーグルト自体の性質が違うということである。
A社の製品はB社の製品よりもビフィズス菌を多く含有しており、そのため価格が割高である。
B社の製品は、ビフィズス菌が少ない分、庶民には嬉しい割安価格で売っている。
A社とB社の違いはそれだけである





その本質に人々は気づいたのだ。

我々を分つのは、実に物質的条件ではない。
パッケージが示しているのではない。

中身。

肉体ではなく、精神。

それが我らの本質を示しているのだ。


大昔から受け継がれてきたこの思想を、人々はテレパシー装置によって、完全に理解したのであった。

人々は大声で叫んだ。

「物質世界と決別するときがきた!」

「われはここにあり!」

「この肉体が一体なんだというのだ!」

「上辺だけの個別性になど、もはや何の意味があろうか!」

「この顔を、髪を、肉を焼け!!」

「心をあらわに生きるのだ!!!」


特に、ある前衛的な思想団体は、自殺行為に等しいめちゃくちゃな整形手術をくりかえし、骨がむき出しの状態の生きた屍のような党員たちを次々に生み出していった。

彼らの言い分に従うならば、

「私はとても幸せである。肉がなくなり、もはや物理世界の何にも気をとがめることがなくなった。私は風のようである。精神がはつらつとして、思考もすっきりとしている」

この団体の代表、K氏は語る、

「我々は、世界に示している。ただ示しているのだ。この身をもって、この身の、、、肉体の不浄さを!」

約3000人の人々がこの行為によって死んだ。


ここまでの過激な行為を犯す人々は決してマジョリティーではなかったが、確かに人々は精神と肉体との間の不和に、大きな不安を募らせていた。

年間4万人だった自殺者がこの年8万2千人と激増したのも、この心身における乖離現象が原因だと、調査団および特別措置綱医師団は結論づけている。

「テレパシー装置は、決して危険なものではないはずなのだが、我々の統一性を確かに脅かしている」

この事態を重く見た政府は、人道的、かつ、安全な中立案として「人類総平面化計画」を打ち立て、人々に「丸子」になるよう強く推奨した。

「丸子」

これは精神崩壊をもはや必要以上に起こさないようにするための画期的な人的支援プロジェクトの中心医療である。

丸子とは、字のごとく顔面を真っ平らにすることである。
勿論、高度な医療技術に裏打ちされた完全なる安全整形手術によって。

鼻をそぎ眼球をくり抜く、瞼を縫い付け唇を焼ききる、歯だけはしっかり残しておく。テレパシー装置がカバーするのはあくまで感覚だけであるから、歯を抜いてしまってはいけない。
この時代にあっても、人々は食べることをわすれてはいなかった。
栄養分は口から流し込む。
歯はなければならない。

歯は。


こうして「丸子」になった人々が世界中にあふれ、眼球喪失によって、皮膚による人種差別も極端に減り、人々は精神性にあふれた生活を心から噛み締めることができるようになった。
差別は決してなくならなかったが、それは精神性の乏しさからくる侮蔑が引き金になることが多かった。
醜いものは総じて心が醜く、卑しいものは総じて心が卑しかった。
もはや取り繕う隙もなく、誰がどういう人間か、全ての人間を、全ての人間が、心から知ることができるようになった。

この瞬間に「神」は死んだ。

信仰が、この世界から消え去った。

もう神に頼らなくとも、人々は己の力で、世界を見通す力を得たのだ。

国境も消え、権力闘争も消え、通貨制度も廃止になり、ただこの世界にながれつづけるものは、他人をおもいやり己が満たされる「愛」だけになった。
他人のために苗を植え、他人のために毛糸を編み、他人のために家畜を追い、他人のために靴を磨き、他人のために国家をまとめあげ、他人のために心から涙を流せるようになった。

人々は、皆同じ顔を持ち、同じ物理的な醜さを抱え、同じ価値観のもと、同じ美しさを感じ、同じ精神的支柱に寄り添い、不安の無い生活を続け、やがて次第に同じ運命を感じるようになっていった。

「なあ。もう、ひとつになってしまわないか」

もはや精神さえもが境界を嫌うようになり、肉体だけでは飽き足らず、他人と自分との「自他」を解消しようと言う動きが、全世界で起こり始めていた。

「テレパシー装置が開発されてから200年。我々は、ついに更なる上昇の時期にさしかかってる。この時代に生まれたことを心より全生命に感謝する。我らは一つになるのだ」

全世界予算のおよそ3分の2を投入しての、人類史上記録に無い大開発計画の始まりである。

歴史的にはここで、人類にとって大きな分類的な区分が設けられることになるが、それは後に回しておこう。


「精神を一つに!!ワレラをワレに!!」

「壁を、あらゆる壁を破壊せよ!」

「かつてない統合を!!完全なる調和を!!」

「もはやテレパシーなどいらぬわーーーーーーーー!!」

世界が、狂ったように燃え上がっていた。

人々は裸のまま踊り狂った。
食事もとらず、13日間踊り続けたコロジー族の女が、全世界に向けてある神託を受け取ったと同族の男が騒いでいたが、誰もそのことに耳を貸そうとはしなかった。
人々は踊り続けた。
コロジー族の女は泡を吹いて死んだ。
同族の男も発狂して死んだ。
全世界で7万人が死んだ。
発狂したままの人間を合わせると23億人が、なんらかの失調をこうむった。
しかし、誰一人そのことを悲しむものはいなかった。

もうはじまっていたのである。

人類の合一への歩みは。

人々は望んでいた。

ただ一つになることを。

人々は陶酔していた。

「ひとつ」がもたらす幸福を思い描きながら。。。。。




12年後。

人々はひとつになった。

ひとつ。


これがその「ひとつ」である。






よく見てほしい。

この「ひとつ」には、無数の人々の精神がうごめいている。

わかるだろうか?

かれらが求めた、かれらが必死に求め続けたものが。

私にはよくわかる。

これは只の、

はなくそだ。






「博士!!」

「なんだねヘポイ君」

「私はようやくわかったのです」

「ほう」

「あなたは天才です」

「ほうほう」

「あなたは馬鹿のふりを実にうまくやりなさる天才です」

「ほう」

「この機械を、必ず後世に伝えて参ります」

「ほう。なぜ今ではなく、未来なのだ?」

「これから長い間、人類は狂い続けるからです」

「うむ。理解しておる。君、それを頼んだぞ」

「はい!博士!!」



そして、1万4千年の時を越えて僕はこの現代に来た。

2009年春、変な名前のバンドの音楽ツアーがあるらしい。

それに便乗してこの聖なる言語変換機を発動させようじゃないか。

僕は博士に内緒で「ケレカ」じゃなく、これに新しい名前を付けようと思う。

「オンガク」だ。

オーンガクーを、藍坊主と発動させようと思う。

百景か。

楽しみです。

YES.kereca/hozzy

hozzy