くさらないものたち。
歯になっていった。
あらがう術も無く、吸い込まれるように私は歯になっていった。
レンズの一点に集中する緊張感、ズームどころではなく、そのものに取り込まれるような青黒い鋼鉄の予感。
それはやがて白昼夢に変わっていったようだった。
『ねとねとねとねと』
『ねこねこねこねこ』
『ねっしーねっしーねっしーねっしー』
ネッシーすげえ。
巨大な湖にたゆたう波紋の謎、原因、風のない日に起こった不安の兆し、原因、恐竜がまだ生きていたらなんか夢がある、原因、誰もが抱える見えないものに対する圧迫感、原因、それが古代の生物だったらこっちはなんかちょっとまだ支配的思考になれる、原因、だってぼくたち文化人だし、原因、最先端的自負、原因、イギリス、原因、その歴史派手さが、原因、世界共通語の旗手、原因、ビートルズすげえ、原因、ネス湖はイギリス、原因、淡水に潜む身近さ、原因、理由が無ければ生きていけない僕たち、原因、いつまでも人の形を保ってられると思っている僕たち、原因、ふとした瞬間を知らない僕たち、原因、日常は解体の上に建っている、原因、歯になったらよくわかった、原因は原因なんかには到底なれないのであった。
いつだって私は、時間の限界に接している、
原因など追いつかない所に、解体しながら突き進んでいる、
否、
砕けちりながら今この瞬間の自分を形成している、
そして知らぬ間に、変態料理を求める日常に到達している、
気がつけばウェイターに嫌悪を覚え、その気概を抱えたまま水を頼んでいたりする。
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いいこ、、、いいこ、、、いいこだねぇ、、、。
こっちにきてわらってほしい。
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歯に吸収されたのは、結果的に私であったかもしれないが、そこに私はいなかった。
だって歯だったんだもん、、、、。
「これはどんな冗談なんだい、君」
「Bウォーターでございます、お客様」
「、、、、ほう」
なめやがって。
私はどうやら勘違いをしていたようだ。
この店の接客は、先ほどからこの店のあり方にどうもそぐわない。
私にも我慢の限界というものがある。
当然これには暴力が併発する恐れがある。
また屁をこいた。
その音が素晴らしかった。
だからタフガイを思い切り殴った。
しかし彼はビクともしなかった。
「、、、、お客様。あなたはどうやら勘違いをなされているようでございます、、、」
「きぇい!!!!」
タフガイの股間に膝蹴りを決めてやった。
「ぐはっっっ!!!!」
さすがの奴もこれにはグラリときて白目を剥いた。
「うぅぅ、、、あなたは、、、、何をしにここへこられたのですか、、、、、、」
「自問自答」
最後の一撃を最高のタイミング、角度、強さでキめた。
タフガイは実に無念そうな表情を滲ませながら、ケツを突き出してそのまま崩れさっていった。
店の客はみんな知らん顔でクソみたいな料理を神秘とでも言うような眼差しで喰らい続けている。
グラスには歯が沈んでいる。
私はそれを、しぶしぶ欠けたとこにアロンアルファでくっつけた。
それがタフガイへのせめてものハナムケである、となんとなくそんな気がしたからであった。
実際、すっきりとして清々しくなてきている自分が軽薄に感じられて嫌であった。
それに、もうすぐ店の表に立っていたターバンの男(たぶんインド人)が私のもとへやってきて制裁を加えにやってくるだろう。
私は、たぶんぼこぼこにされるであろう。
歯なんて全部なくなっちゃうかもしれないであろう。
それで、いいのだ。
にんげん、だもの。。。。
二人の偉人の言葉が私の脳裏を通り抜けていった。
さいこうのきやすめダモノ。
ね、私はただ、突き抜けたかっただけなのだ。
変態ではないくせに、変態をしてみたかっただけなんだもの。
虫なんて全く食べたくなかったんだもの。
ああ、すごい、ぜつぼうかん。
ひらがなで、ぜつぼうかん、が、ぴったりだもの。
そうしたら、
ちら。
ちらちら。
ちらちらちら、、、。
じいいいいっ、、、、、、、、、、、、、、、、、。
厨房からこちらを窺っているひとつの視線がある。
なんか空気が少し穏やかだった。
口から血を垂れ流した、一人の青年の姿がそこにはあった。
YES.dry/hozzy