サユキ。

雪がうっすら積もっている。

硬くて冷たそうな夜の雪。

昨日は一歩も外に出なかったけど、雪の日の寒さは、匂いがする。

部屋の中にいて、机の前でカレーパン齧ってても、雪の寒さの匂いがする。

普段は、別に匂いなんてしない。

寒いだけ。

カレーの匂いとは別の場所から、混じり合う事が無い別の角度から、石油ストーブの匂いのきつさに更に浮き立つような匂いがくる。

香りはしない、なのに匂いがする。

雪が降ると、実際外はずいぶん静かになるけど、それが関係しているのかな。

こんな日は、いつもうるさい鳥たちはどこに身を潜めているんだ。

ベンチで偉そうに寝そべっていた野良ネコは、身の引き締まった野生っぽい山鳩風のハトは、俺のミカンをちぎって食ったカラスは、最近あんまみない小さいスズメたちは、どこで静かに固まっているんだろう。

震えているんだろうか。

耐えているんだろうか。

それとも匂いに化けて、人間の鼻の奥へ入っていき、そこで暖をとっているのだろうか。

少なくとも俺は彼らの事を思い浮かべてしまった。

ならばきっと今頃、脳の中で暖をとっているのだろう。

ゆっくりしていって欲しいものだが、そろそろ俺も眠らなくては今日がこないのである。

脳の中に、雪の匂いの答えがあるのだろうか。

五感神経の電子刺激によって変換された感覚的イメージが、不完全なまま、分類不可能な地点で、不可分なまま、分離失敗、停滞したまま溶けては消え、やってきては不思議になり、溶けては、消えていっているだけなのだろうか。

この頭蓋骨の中に在るぶよぶよしたぶっとい神経の集まりに、すべては収斂されているのだろうか。

この雪の日の匂いも、寂しさも、愛情も、山鳩たちも。

硫黄の匂いを思い出す。

温泉が恋しい。

しかし俺は、脳の中になどいない。

脳の中に、そんな匂いが在るわけも無い。

俺の中に脳があり、ただ匂いが在るだけだからだ。

脳の中に、俺がいるのならば、一体誰の中にこの脳が、あるっていうんだよ。

この体は?

この意識は?

俺の体の中に脳があって、その脳の中に俺がいる。

完全に狂っている!

「おれのからだのなかにのうがあって、そののうのなかにおれがいる」

あたまいたい。

でもこれが現代の常識なんじゃないのか。

だから脳死問題が重要な論点になっているんじゃないのか。

「俺の体の中に脳があって、その脳の中に俺がいる」

「俺の体の中に」って、その「俺」ってじゃあ、一体誰なのよ?

ってなんないほうがおかしくない?

破綻、この雪の匂いも、真っ白な感覚も、破綻させて、いったんはたーーん、させて、いいのかなこりゃあ。

つまり俺は思うのである。

私は、この世界のどこにもいない。

故に、ここに、意識として、私という存在を投影できるのである。と。

どうにも物質面だけみていては、匂いの感じもよくわからないまま。

匂いを感じる鼻の中の神経。

その神経を刺激させる匂いの粒子。

嗅覚発動。

わかる。

じゃあ、このカレーパンにも負けなくらいのすーんとくる雪の日の匂いはどうなって匂いになっているんだっつうの。

匂いじゃねえんだよ。

なのに匂いみたいなんだよ。

目をつぶされねえよおれは、納得なんていたしませんわよヨ!

脳の中に俺がいる訳ねえだろバカタレが、科学者ども。

焼き肉のタレの中に俺はいるんだよ。

それをうめえってやってるところにわたしはおるんだよ。

想いとか、そういうのってやっぱ物質じゃないじゃないよ。

絶対わかりっこねえし、わかられてたまるかってよ、脳みそいじくっただけでカレーパンの味とかがさ。

物質還元主義には、辟易。

かといって、安直に、神様仏様ってのも、こっちのが嫌いじゃないけど、焼きにくくってうめえって、やっぱそういうことじゃないじゃんよ。

だから生きてるって、ものすげえんだよやっぱ。って、思えるんだ俺は。

焼き肉が「うめえ」ってなること、この感じが、どこがどうなってこうなるのか、その秘密さえ解けない深遠さが、よほど垂直に俺たちには横たわっている。

のうみそ眺めたって、脳波記録したって、絶対解らない、「うめえ」って感触、感動、質感。

だから俺は安心して俺をやってられる。

ちゃんと個別性を守られている気がするのだ。何かに。

雪の日は、神奈川出身者にとっては、やっぱりうきうきする出来事。

まだ外に一回も出てないけど。

YES.umai/hozzy

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